 頭部打撲後の頭痛は脳の異変を告げるクラクション
- 1999年に起こった「厚底サンダル事件」は当時センセーショナルに報道された。
25歳の女性が厚底サンダルを履いて転倒し死亡していたという事件である。
彼女は前日の夜、居酒屋で酒を飲んだ。
友人の男性から携帯電話で誘われ、別の飲食店に向かった。
だが店の近くで「頭が痛くて気分が悪い」などと携帯電話で男性に連絡、空き地で休みを取った。
その翌日、死亡して発見されたのである。
手足には転んだ跡がなく、左側頭部の骨にはひびが入っていた。
- この事件は、厚底サンダルの弊害にのみ焦点があてられたが、
急性硬膜外血腫（きゅうせいこうまくがいけっしゅ）という病気についても関心を払ってほしかった。
この血腫は開頭手術により救命できる病気だからである。
- 硬膜外血腫は「意織清明期」といって、始めは正常風に見えるから逆に怖いのである。
- 硬膜外血腫はこめかみの部分を打撲した場合にできやすい。
- 頭蓋骨の厚さはふつう１センチ弱あって折れにくいが、
側頭部は数ミリの厚さしかなく、簡単にヒビが入ってしまう。
- するとこの部分にある脳の膜の血管（硬膜動脈という）を傷つけて、出血が始まる。
- このタイプの出血は硬膜の外、頭蓋骨の下に溜まるので硬膜外血腫という。
- 硬膜外に出血があっても、脳の外の事件であるので、
この時点では意識ははっきりしている。
- 出血が増大してくると、頭痛と吐き気が始まる。
- 出血が進むと、意識が亡くなり、数時間後には死亡してしまう。
- 女性が「頭が痛くて気分が悪い」と訴えたのは、実は硬膜外血腫発生の予兆だったのである。
- この時点で脳神経外科へ運び込めば開頭血腫除去により救命できた。
- 頭部打撲のあと、頭痛がひどくなり吐き気がある場合は、飲酒の有無にかかわらず、
かならず脳神経外科で検査を受けてほしい。
- とくに意識レベルが下降線のときには緊急性が高い。
- 頭部打撲のあとの頭痛と意識障害は、脳の異変を告げる警報機（クラクション）なのである。
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